←これを観たかったのは、塀内真人(現・夏子)の漫画「おれたちの頂」に、影響を受けたからです。「おれたちの頂」は、その昔少年マガジンで連載されたマウントクライミング漫画でして、かなり粗っぽく強引な(ところが実に塀内先生らしい)部分はあれど、まったく違う性格を持つ邦彦と恭介が、極限に立ち向い、さまざま困難を乗り越え、難攻不落の山々を征していく姿、彼らのパートナーシップ、山に対する愛情がストレート真っ向勝負で描かれおり、当時は涙涙で読んだものです。山登りはしない私が、いまだにクライム用語を覚えてるあたり、この漫画の影響は自分の中でかなり大きかったようですね…ってか、塀内作品は昔のほうが断然面白かった、この「おれたちの頂」と「フィフティーン・ラブ」と「涙のバレーボール」は、スポーツ青春漫画の名作だったよなあ…(遠い目)…って、そう思う方は他にいらっしゃいませんか?

山岳文学だけでなく、ノンフィクション文学としても傑作と云われている大ベストセラー、ジョー・シンプソン著「死のクレバス アンデス氷壁の遭難」が映画化されたというので、観に行って来ました。

■「運命を分けたザイル」Touching the Void(2003・英)
IMDb→http://us.imdb.com/title/tt0379557/
日本公式サイト→http://unmei-zairu.com/
監督:ケビン・マクドナルド
脚本:ジョー・シンプソン
出演:ジョー・シンプソン、サイモン・イェーツ、ブレンダン・マッキー、ニコラス・アーロン、他
上映時間:107分

ストーリー:
1985年6月、野心溢れる若き英国人クライマー、ジョー(B・マッキー)とサイモン(N・アーロン)は、ペルーのアンデス山脈で難攻不落の標高6600mシウラ・グランデ峰に挑み、困難に遭遇しながらも登はんに成功する。だがその後、帰ルートにて最大の試練が彼らを待ち受けていた――。

「ジョーとサイモンの当事者ふたりが状況を語り、それと同時に俳優たちによる再現ドラマが展開する」という、ジャンル的にはドキュメンタリーだけれども、俳優たちの演技、ロケーション、そして撮影がたいへんリアルで素晴らしいために、その部分だけで充分映画として成り立っている…という不思議な作品。

ドラマオンリーな「クライマー映画」にすることだって可能だったのに(実際、トム・クルーズ主演で映画化の話があったそう)、インタビュー+ドラマ構成のドキュメンタリーにしたため、「最終的にふたりが助かったのかどうか」というドラマの部分でハラハラドキドキしたくても、スクリーン上で当事者ふたりが語ってる以上、ふたりは助かったんだと確実にわかるわけで――そのドキドキ臨場感&緊張感はどうにも薄れてしまう。

よって、純粋にドラマ部分を楽しみたい人には少々興がさめる作品であり、事実、私も途中まで「なんか入り込めないなあ」と思ってたのですが。

ジョーがたったひとりぼっちでクレバスに取り残され、なんとか脱出、でも地上で動けずにいる――その彼の心情を語るナレーション(しかも本人)を聞いているうちに、これはどんな俳優でも演じ切れない、生と死の狭間、その極限を超えてきた当事者にしかわからない心理状態だろう――そうなると今度はスクリーンに映し出されるものがおそろしくリアルに見えてくるようになり、結果、ドラマ+ドキュメンタリーという手法を選択して良かったのではないかと思うに至りました。

通常のドラマ映画として製作されていれば、描かれる感動は誇張されたものになる。でも本作が選択したのは、誇張のない事実とふたりの真の思いを描くこと。スクリーンを見ていると、それがよく伝わってきたナリ。

俳優たちのセリフのない演技だけでなく、登はんとクレバス描写がたいへんに素晴らしく、きっとこれらの撮影にも誇張のないリアルさがあるんだろうなあ、撮影は困難を極めたんじゃないだろうか……と、ドキュメンタリーの奥深さとともに、製作側の情熱が感じられた1本。

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