■『夢を見るヒマもない』
山田 ユギ 二見書房 2006年
どんなBL読者でも誌名を聞けば身構えるだろう「麗人」から、業界では最もポップで華やかだろう「BE×BOY」まで、そのレーベルを問わない活躍ぶりにより、全国…いや全世界のRotten sisters(腐女子)の萌えツボをつきまくる、BL界の北斗神拳伝承者ケンシロウこと、山田ユギの「シャレード」連載作の単行本化。
BL界では高値安定株の筆頭というか――山田ユギには本当にハズレがないね。たとえば、仮に続きモノではない5本の短編が1冊に入っていたとして、腐女子ならその本を手に取った時点で「きっと全部面白いんだろうな」と思うはず。BL信頼係数の高さはハンパじゃない、だからこそ各誌から引っ張りだこに遭ってるんだろうけど。
キャラがみな立っているとか、BL連載モノの定番と云える「主人公カップル以外にもう1カップル」をツボを押さながら描いてくれるとか、シリアスでもつい笑っちゃうギャグがちりばめられているとか、BLでもキャラたちの恋愛や仕事事情に共感してしまうとか、それでも大人のエロはちゃんと見せてくれるとか、高口組出身らしく(?)駆け引きめいたセリフは素晴らしいだとか、基本的にお話はハッピーエンドが多いからとか、時代はリーマンものでそのツボが押さえられているだとか――その人気な理由はさまざま挙げられるけれども、山田マンガが愛される最大の理由は、コメディだろうとシリアスだろうと、魅力あるキャラたちが、家庭や将来や仕事といった普遍性の高い悩みをそれぞれ抱えながら、みな真剣に恋愛していること、そしてそれが胸キュンで伝わってくるからなんだと思う。
そんな山田マンガの良さを教えてくれるのが、本作『夢を見るヒマもない』。
舞台は山奥の航空専門学校、主人公たちは10代。フツーの作家ならば寄宿舎学園モノで終わるところ、山田ユギは違う。
一緒に駄弁ったりバカやったり、たまに将来のことを語り合ったりして、少しずつ互いのことが分かってくる――そんな単純な時間を過ごすことが楽しくてたまらない、主人公の川村。でもその楽しい時間は数ヶ月で終了。ひとりになり、そして大人になったとき、ふと思い出すあの日々。相手を完全に理解する前に別れ、その短さゆえ必要以上にせつなくやるせなく、恋や友情とは別の次元で心に残っているあの感情――専門学校時代をあくまでも将来の布石として描いているので、再会直後のふたりのぎこちなさ、恋愛に至るまでのじれったさ、そして飛行機への思いというものが最初からよく伝わってくる。今の仕事は楽しいけど、パイロットという夢がどうしても捨てられないという悩みも共感できる。絶妙だ。
脇キャラは相変わらず立っていて、魔性の森下先輩、ゴツイ吉田先輩を見ているのも楽しい。数年前の「働きません!」では、脇キャラの赤尾が立ちすぎて困ったけれど、本作はセーフ。この暴走し過ぎない脇キャラ路線は、これからも保っていって欲しいと思う。
評価:★★★★
え?これだけホメといて★★★★★じゃないの?と訊かれそう。いやだって「ドア」シリーズが★★★★★だから、それを基準にするなら、本作は★★★★かなと。面白くてハズレがないぶん、それだけ山田ユギに課される(科される?)ハードルは高い、★★★★でアベレージ、つまり当たり前の出来ってこと。
ところで。居酒屋でオッシーに「秋林さん、表紙カバーをはずしたことないの?ちゃんとはずしなよ、お楽しみ半減だからさ〜、ダメじゃん!」と云われたので、帰宅後はずしてみたら――思いがけず現れた表紙絵とあとがきに大爆笑、遅ればせながら「BLマンガは必ず表紙カバーをはずしてみるもの」と認識致しました。
それにしても、「カバー取ったら、裏表紙にあとがきが書かれていた」なんて本に初めて出会ったよ…ゴーインな小ワザだなあ。
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
山田 ユギ 二見書房 2006年
山奥の航空専門学校で出会った川村と吉武。早熟でクールな吉武と同室になった川村は数ヶ月をともに過ごすが、吉武は父が飛行機で事故死したことを機に退学、つながりは途絶えたかに思えた。ところが就職先の航空貨物会社で運命的な再会を果たして……。
どんなBL読者でも誌名を聞けば身構えるだろう「麗人」から、業界では最もポップで華やかだろう「BE×BOY」まで、そのレーベルを問わない活躍ぶりにより、全国…いや全世界のRotten sisters(腐女子)の萌えツボをつきまくる、BL界の北斗神拳伝承者ケンシロウこと、山田ユギの「シャレード」連載作の単行本化。
BL界では高値安定株の筆頭というか――山田ユギには本当にハズレがないね。たとえば、仮に続きモノではない5本の短編が1冊に入っていたとして、腐女子ならその本を手に取った時点で「きっと全部面白いんだろうな」と思うはず。BL信頼係数の高さはハンパじゃない、だからこそ各誌から引っ張りだこに遭ってるんだろうけど。
キャラがみな立っているとか、BL連載モノの定番と云える「主人公カップル以外にもう1カップル」をツボを押さながら描いてくれるとか、シリアスでもつい笑っちゃうギャグがちりばめられているとか、BLでもキャラたちの恋愛や仕事事情に共感してしまうとか、それでも大人のエロはちゃんと見せてくれるとか、高口組出身らしく(?)駆け引きめいたセリフは素晴らしいだとか、基本的にお話はハッピーエンドが多いからとか、時代はリーマンものでそのツボが押さえられているだとか――その人気な理由はさまざま挙げられるけれども、山田マンガが愛される最大の理由は、コメディだろうとシリアスだろうと、魅力あるキャラたちが、家庭や将来や仕事といった普遍性の高い悩みをそれぞれ抱えながら、みな真剣に恋愛していること、そしてそれが胸キュンで伝わってくるからなんだと思う。
そんな山田マンガの良さを教えてくれるのが、本作『夢を見るヒマもない』。
舞台は山奥の航空専門学校、主人公たちは10代。フツーの作家ならば寄宿舎学園モノで終わるところ、山田ユギは違う。
一緒に駄弁ったりバカやったり、たまに将来のことを語り合ったりして、少しずつ互いのことが分かってくる――そんな単純な時間を過ごすことが楽しくてたまらない、主人公の川村。でもその楽しい時間は数ヶ月で終了。ひとりになり、そして大人になったとき、ふと思い出すあの日々。相手を完全に理解する前に別れ、その短さゆえ必要以上にせつなくやるせなく、恋や友情とは別の次元で心に残っているあの感情――専門学校時代をあくまでも将来の布石として描いているので、再会直後のふたりのぎこちなさ、恋愛に至るまでのじれったさ、そして飛行機への思いというものが最初からよく伝わってくる。今の仕事は楽しいけど、パイロットという夢がどうしても捨てられないという悩みも共感できる。絶妙だ。
脇キャラは相変わらず立っていて、魔性の森下先輩、ゴツイ吉田先輩を見ているのも楽しい。数年前の「働きません!」では、脇キャラの赤尾が立ちすぎて困ったけれど、本作はセーフ。この暴走し過ぎない脇キャラ路線は、これからも保っていって欲しいと思う。
評価:★★★★
え?これだけホメといて★★★★★じゃないの?と訊かれそう。いやだって「ドア」シリーズが★★★★★だから、それを基準にするなら、本作は★★★★かなと。面白くてハズレがないぶん、それだけ山田ユギに課される(科される?)ハードルは高い、★★★★でアベレージ、つまり当たり前の出来ってこと。
ところで。居酒屋でオッシーに「秋林さん、表紙カバーをはずしたことないの?ちゃんとはずしなよ、お楽しみ半減だからさ〜、ダメじゃん!」と云われたので、帰宅後はずしてみたら――思いがけず現れた表紙絵とあとがきに大爆笑、遅ればせながら「BLマンガは必ず表紙カバーをはずしてみるもの」と認識致しました。
それにしても、「カバー取ったら、裏表紙にあとがきが書かれていた」なんて本に初めて出会ったよ…ゴーインな小ワザだなあ。
NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。
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