■『DEADLOCK』
ISBN:4199004084 文庫 英田サキ(挿絵:高階佑) 徳間書店 2006/09/27 ¥580
同僚殺しの冤罪で、刑務所に収監された麻薬捜査官のユウト。監獄から出る手段はただひとつ、潜伏中のテロリストの正体を暴くこと―!!密命を帯びたユウトだが、端整な容貌と長身の持ち主でギャングも一目置く同房のディックは、クールな態度を崩さない。しかも「おまえは自分の容姿を自覚しろ」と突然キスされて…!?囚人たちの欲望が渦巻くデッドエンドLOVE。

端正な描線で人気の絵師・高階佑の手による、美形男ふたりの監獄服マグショット(逮捕時に撮られる写真)、という表紙からもわかるように、本作は刑務所モノである。栗本薫「終わりのないラブソング」(たいへん古くて申し訳ない)、木原音瀬「箱の中」など、本作以外にもBLレーベルの刑務所モノは数あるが、米国のムショが舞台というのは珍しい。海外ドラマ「プリズン・ブレイク」の影響か。ただし、表紙をめくって最初に出てくるカラー口絵からは、刑務所モノというよりヤンキー学園モノという印象を受けてしまうが。

!以下、ほんのりネタバレ注意報!

さまざまな男たちのエゴが渦巻く刑務所。自由を取り戻すため、孤立無援なユウトの捜査が密かにいま幕を開けた――という具合に、海外刑務所モノ定番と云える「狭い空間で圧迫していく密な人物相関」がハードに描かれるのかと思っていたら、登場人物たちはみな信じられないくらい人が良く、人種がどーの言語がこーのといろいろ書かれているわりに、みな日本人的な考え方をするため、舞台が海の向こう、かつムショである必要性があるのか疑問に感じた。がしかし、考えてみれば、青山出版社から出ているようなギャングスタ・ノベル要素を、我がニッポンのBLに求めること自体おかしい話であり、間違っているのは私のほう、ダメじゃんか!>秋林…というわけで、以下、心の底から悔い改めて感想を。

テロリスト探しで必死というより、ムショ内アイドルになっていく過程がメインストーリーかと思うくらい、見事な姫っぷりを見せてくれる主人公ユウトである。有能な麻薬捜査官だったという経歴を裏付ける捜査能力を感じさせてくれないのが、ちょっとツライところか。読んでる側としては、誰がコルブスなのか、キャラクターの立ち位置を見れば簡単にわかってしまう上、トントン拍子で話が進んでいくので、なんだか物足りない。2時間サスペンスのような印象だ。ただ逆に云えば、読者層を選ぶ設定のわりにテンポがよく、主人公が外国人でもジャパニーズアメリカンなので比較的思い入れしやすく、心情吐露かつ説明的な文章は比較的多めで、ラブなエピソードと展開と表現も「どこかで読んだような」印象(別に悪いことじゃない)、意図的に間口を広めにしてある作品と云えるため、キャラ萌えしながらラブを楽しみたい、という人にはオススメだと思う。

ただなあ…BLでは海外の刑務所なんてあんまりお目にかかれない設定だけに、できれば1巻だけで出所/脱獄して欲しくなかった。ユウトが完膚なきまでに打ちのめされ(シャワー室の1件だけでなく)、閉塞感と絶望感、そこから這い上がっていく姿というものが足りなかった。根性を見せて欲しかった。成長が感じられなかった。(私には)甘すぎた。

冤罪で刑務所に放り込まれ、プライドはズタズタ、いったいなにを、そしてだれを信じていいのか。そんな状況下でディックと出会い、牽制しながらも芽生えて燃えた恋はスーパースペシャル、ロマンス的というより運命的だ。だけれども最後まで互いの身上はどうしても明かせない、なぜならそれは――「待て、次巻!」だったら……嗚呼!もっと萌えたのにぃ!

評価:★★★
サクサクっと読める。こーゆーのが売れるんだろうなあ、という印象。書きたいシーンはいろいろあるけれど、削れるところは削って、みんなが読みたいラブシーンはしっかり入れ、1冊にまとめ上げるって作業はタイヘンなんだろうな。そう思うと、「こうしたらいいんじゃないか」「トントン拍子だ」なんて書くのは、悪い気がする。

ただ英田サキ作品で毎回思うのは、攻のキメ台詞(パンチライン)が、私にはなかなかクリーンヒットしないということ。モタついてどーにもキマらない。ジョージ・クルーニーが云ったらピッタリくるような台詞、待ってますから!>英田センセ

ところで。著者のあとがきによると、タイトルの「DEADLOCK」という言葉は、直訳すれば「膠着状態」「行き詰まり」、IT用語では「処理停止」と書かれてあったけれども、タイトルの意味うんぬんの前に、まず攻の名前「ディック」をなんとかして欲しかったと、「三点リーダ+ディック」の連発ページを見るたびに思ってしまう…。

NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

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