■『公使閣下の秘密外交』
ISBN:481305045X コミック 新田祐克 大洋図書 2006/12/27 ¥680
「未来の義弟にひとつ秘密を持ってもらおう」
優れた能力と容姿故に、若くして在タイ公使として活躍する吉永孝司。外務省の実力者を父に持つ名家出身の白石智宏。
将来の義兄弟として出逢ったふたり・・・白石が新人外交官としてタイにやってきたことから男としての矜持と能力を賭けた戦いが始まる!!

新田祐克は、現在のBL界において「この人しか描けない」オンリーワンな存在、誰もマネできない作画と構成力、ストーリーテリングを持つマンガ家である。「新田祐克に似てるマンガ」なんぞ、私はこの10年読んだことがない。ありますか?>腐女子のみなさま

「新田マンガ」と云えば。ラブに翻弄されても、決して仕事へのプライドを忘れない男たち。紙面からギラギラ感垂れ流しの「そもさ〜〜ん!せっぱ〜〜!」なガチンコ勝負。常識と節度がぶっ飛んだストーリー展開にビックリエロ。アンビリーバボーなくせ、妙に説得力のあるセリフの数々…など、上手く云えなくてもどかしいのだが、とにかくたいへん特徴のある…って、えええ〜〜いっ!読めばわかるんじゃあああ!…という魅力(魔力?)を持つマンガである。そして電車の中では決して読めない。

そんな新田センセが大洋図書で始めた外交官シリーズが本作。昨年終了したホストシリーズ、現在好評連載中の『春を抱いていた』に次ぐ、代表作となるのではないだろうかと思っているのだが――これがまた相変わらず濃い、のである。

!以下、マジでネタバレ注意報!

部下:新人外交官×上司:エリート公使(こうし…大使に次ぐ席次の外交使節。B’zの稲葉浩志のことではない)。お得意の年下攻で、受は新田マンガ定番の「魔性の女王様(貞節ナシ)」、攻もこれまた定番だろう「いつの間にやら受に食われた元門外漢(ノンケとも云う)」。安易な陵辱というものは存在しない。だって新田マンガだから。

本作で重要ポイントなのは、攻(白石)の父親は事務次官、出世を求めて受(吉永)は白石の姉と婚約中――つまり将来は義兄弟というふたりの関係である。レディース以上のトンデモ不倫である。そしてさらに、タイ公使の身でありながら吉永は夜な夜な現地で男あさり…って、そんな外交官いていいのかっ!?変装してたって、そんなんバレるっつーの!…でもバレそうでバレない。だって新田マンガだから(免罪符)。

それにしても新田センセは手抜きをしない(とゆーか、知らないのかもしれない)マンガ家だ。作画だけじゃない、設定でも、である。ビックリトンデモ新田ワールドの舞台はあくまでも現実なのである。たとえば、マンガなんだからC国だのT国だのとボカしてもいいのに、ふたりの赴任地はタイ、仏大使や中国大使と折衝するシーンが堂々出てくる。議題は仏なら米国との貿易競争、中国なら靖国問題――実際と同じであり、しかもタイムリーである(シリーズスタートは2003年)。これホントにBLなのか!?と驚くと同時に、BLなだけに「この作品はフィクションであり、実際の事件・団体とは一切関係がありません」と断り書きがあっても、「C国になんぞ云われないだろうか…」と心配になってしまう私である。

上司と部下、義兄と義弟、不倫と禁忌、ラブの前に立ちはだかる問題にそれぞれの思惑、そしてプライドに使命。受にはなにやら過去があると示唆された1巻、今後の吉永と白石の駆け引きが楽しみである。白石!姉貴に負けるなよ!

評価:★★★☆(とりあえず様子見で面白い)
新田祐克なので特別扱いなのかもしれないが、さすが大洋図書、これもまた本の装丁とデザインが素晴らしい。

↓『公使閣下の秘密外交』装丁の話
http://diarynote.jp/d/25683/20070105.html
(フツーのコミックスと違って、ページを深く広げることができます)

ところで、本作を読み、10年ほど前に心交社から出た『踊るリッツの夜』(ショコラノベルズ)というBL小説を思い出した方はおられるだろうか?

現在は作家活動されていない(と思われる)長谷川忍さんが書かれた小説で、当時長谷川さんと組むことが多かった新田センセが、絵師を担当されていた。内容は「インドシナに副領事として赴任した妻帯者である外交官・雅広(受)と、現地に旅行でやって来た学生・明海(攻)との不倫の恋」。ふたりの関係は日本に戻ってきてからも続いたが、バレて別れ、数年のちに外交官となった明海が雅広の前に現れる――というようなストーリーだった。新田センセの絵師ぶりが素晴らしかったことを覚えている(本はいま手元にナイ)。

設定は多少違うものの、アジアが舞台、外交官による不倫の恋(しかも年下攻)な話を、10年経ってまた新田センセが描かれるなんてなあ…と、ちょっと遠い目になってしまった。

NO STAR … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまんない。
★★★ … 退屈はしないしけっこう面白い。
★★★★ … 面白い。佳作/秀作。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。

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