■『コル・レオニス ―獅子の心臓― 』
ISBN-10: 489393550X ふゅーじょんぷろだくと 2008/06
あの「つばさ五段活用」(…)の会社ふゅーじょんぷろだくとから、パロディ以外の正規BLレーベルがあったとは。勉強・情報収集不足の自分に喝!
!以下、ネタバレ注意報!
BL誌「Baby」掲載+書き下ろしの7編収録。
絵の印象としては、レトロに柔らかめな描線で表情豊かな寿たらこという印象の、いわゆるオシャレ系。よって、たとえば太田出版系にありがちなサブカル要素強めの作風だったり、もしくは、スタイリッシュ過ぎて共感を得づらい「…行ってしまわれた」ストーリーを描く人のように思われるのだが、実際に読んでみると、意外やオーソドックスな内容のものが多かった。
■「MEGA キミ FREAK」 ★★★(とっつきやすいし、面白い)
マンガ家の兄のために女装していたら、その場にやって来たアシスタントの島に見初められてしまった美和(ヨシカズ)。島の前で「ミワ」と名乗り、男だと云えないまま、女装で会う日が続いてしまい――という、定番女装ネタによる年上×年下モノ。
「ホントは男なんです…バレたら嫌われる…ああどうしよう…」という、BLでもよくある話なんだけれども、キャラクターの表情がクルクル変わって可愛いし、楽しいし、なによりわかりやすい。新人作家の初単行本のオープニングにピッタリな1本。どんな作家なのか、1冊全部読んでからでないと見極めがつかないけど、作家の持つ個性と傾向は、だいたい1本目でわかるからね。
ところで。おねーさんから指摘させてもらうと、女装して女物のアンダーウェアを買いに行かなくても、通販したらいいんじゃ?…って、それじゃ話がそこで終わってしまうか。ごめんちゃい!
■「MEGA 恋 メランコリア」 ★★★(ナルホド、そうきたか)
マンガ家の正一は、学生時代に付き合った女の子リエから受けたトラウマで、女性はすべてリエに見えてしまう。そんな正一と奇妙な付き合いが続いている編集の由利。新人作家との打ち合わせが続く由利に、正一はイラつくが――という、これも定番といえる編集×作家な、主人公の心理的(ついでに身体的)解放モノ。
失ってから「あれは恋だった」と気付き、後悔する人は多いと思う。傷つくのがイヤで、あるいはトラウマを持っているがために、素直になれない。彼はオレのもの――正一のヤキモチと不安が解放の触媒か。正一に気を遣っていたとしても、由利だって態度をハッキリさせてなかったのは悪い。「奇妙な行為」ではなく、ちゃんとした「ちゅー」でないとわからないこともある…。BLだからハッピーエンドだろうと予想はつくが、ナルホド、オチはそうきたか。こりゃ由利のほうが苦労しそうだー。
■「HOME」 ★★★(兄キを越えられない、という弟は多そう)
編集・由利を主人公としたスピンオフ。両親の離婚で別れた出来のいい兄に、複雑で青っぽい感情を持つ由利が、自分を解放するまでを描いた家庭の事情モノ。ちょっといい話。
余裕綽々の兄にコンプレックスを持つ弟の話もありがちなのだが、由利兄のあのルックスは弁護士としてありえないかも?…ま、いっか。BLはファンタジーなり。
■「コル・レオニス ―獅子の心臓―」 ★★★☆(ライオン退治とゆーか、ライオン使いとゆーか)
由利の兄・百瀬(弁護士)仕事で出会った、大物政治家の息子・シゲル。ホームスクールで学校に行ったことがなく、協調性のない少年の話し相手になるという依頼を受けるが、シゲルは反抗的で――という、おじさんによる世間知らずのお坊ちゃん手なずけモノ。百瀬視点。
これも実はよくある話だけども、真剣になって読んでしまった。
ヒネくれってのは純真の裏返し…だよね。
■「Destination ―鳥と飛行機―」 ★★★★★(いい話だなあ、うんうん、わかるよ…)
表題作「コル・レオニス ―獅子の心臓―」の続き。シゲル視点。百瀬の影響から、高校に転入したシゲル。毎日が窮屈で仕方がなかったが、クラスメイトと自分との距離、そしてトモダチの意味を知っていく。そんな中、学校を休みがちな委員長・岡から話しかけられて――という、青春真っただ中で右往左往の少年による自己成長モノ。
自分中心の生活から、しがらみのある学校生活へ。自分はちっぽけな存在でなにもできない、変わりたいけど変われない。シゲルにとっては高校が最初の「社会」、でもそれは世間的には狭いもの。学生を卒業してしまえば、避けて通れないしがらみがもっと増えるよ――そんな「大人視点」で読んでいたのだが、高校における人間関係だって、狭いなりに葛藤や気苦労はあったはずで、それをシゲルは経験しているんだよなあ、成長していってるんだよなあと、つい遠い目になってしまった。いい話。ブリリアント。
■「CAFE HICKORY HOUSE」「誰がためにのばす手」 ★★☆(悪くないけど、読む人を選ぶね)
前者は喫茶店を舞台としたワン・シチュエーションもの。後者は和風の寓話もの。
両作とも初期っぽい出来だなあというか、小慣れていない印象。確認したら、「Baby」誌に掲載された1作目と2作目だった。前作はちょっとわかりにくく、後者は内容的に「暗さのない国枝彩香」。どちらも悪くはないけれど、印象に残らないかな。
総合評価:★★★★(絵・ストーリー、ともにもっともっと上手くなっていく人だと思う)
個人的にとても気に入った短編集。でなきゃ、1本ずつ感想を書いていない。どういったらいいのかな…車折さんは、基本的にメジャー路線のBLではないと思うんだけども、サブカル系に走らない・嫌味のないオシャレ系の人、とでもいうか。すぐカラダの関係に走り、それでしか思いを確認しあえないんだといわんばかりのキャラが多いBLで(←それが悪いとは思わないですよー)、体液飛び散るエロ描写はなく、キスという行為で恋のときめきを思い出させてくれる。ああ、そうだよね…好きな人とのキスはトロけるものだよね…。
自己の解放や成長を綴る話が多いかな。説教臭くないので、これまた嫌味じゃない。ただし、モノローグ先行な点が少々気になる。「オシャレ系よりリブレ系」という人にはピンとこないかもしれないが、私には「いい人見つけた!」な期待の新人さん。頑張ってー!
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
ISBN-10: 489393550X ふゅーじょんぷろだくと 2008/06
お得意サマの一人息子・繁の「話し相手」に抜擢されてしまった弁護士・百瀬。周囲には『静かで優秀なお坊ちゃま』で通っているが、実はとんだ我侭暴君タイプで――!?数年前まで、BLにもマンガにもご縁がなかったという車折まゆさんのデビュー単行本。
他、スピンオフ作品MEGAシリーズ等も収録。
車折まゆ初の作品集、鮮やかにデビュー。
あの「つばさ五段活用」(…)の会社ふゅーじょんぷろだくとから、パロディ以外の正規BLレーベルがあったとは。勉強・情報収集不足の自分に喝!
!以下、ネタバレ注意報!
BL誌「Baby」掲載+書き下ろしの7編収録。
絵の印象としては、レトロに柔らかめな描線で表情豊かな寿たらこという印象の、いわゆるオシャレ系。よって、たとえば太田出版系にありがちなサブカル要素強めの作風だったり、もしくは、スタイリッシュ過ぎて共感を得づらい「…行ってしまわれた」ストーリーを描く人のように思われるのだが、実際に読んでみると、意外やオーソドックスな内容のものが多かった。
■「MEGA キミ FREAK」 ★★★(とっつきやすいし、面白い)
マンガ家の兄のために女装していたら、その場にやって来たアシスタントの島に見初められてしまった美和(ヨシカズ)。島の前で「ミワ」と名乗り、男だと云えないまま、女装で会う日が続いてしまい――という、定番女装ネタによる年上×年下モノ。
「ホントは男なんです…バレたら嫌われる…ああどうしよう…」という、BLでもよくある話なんだけれども、キャラクターの表情がクルクル変わって可愛いし、楽しいし、なによりわかりやすい。新人作家の初単行本のオープニングにピッタリな1本。どんな作家なのか、1冊全部読んでからでないと見極めがつかないけど、作家の持つ個性と傾向は、だいたい1本目でわかるからね。
ところで。おねーさんから指摘させてもらうと、女装して女物のアンダーウェアを買いに行かなくても、通販したらいいんじゃ?…って、それじゃ話がそこで終わってしまうか。ごめんちゃい!
■「MEGA 恋 メランコリア」 ★★★(ナルホド、そうきたか)
マンガ家の正一は、学生時代に付き合った女の子リエから受けたトラウマで、女性はすべてリエに見えてしまう。そんな正一と奇妙な付き合いが続いている編集の由利。新人作家との打ち合わせが続く由利に、正一はイラつくが――という、これも定番といえる編集×作家な、主人公の心理的(ついでに身体的)解放モノ。
失ってから「あれは恋だった」と気付き、後悔する人は多いと思う。傷つくのがイヤで、あるいはトラウマを持っているがために、素直になれない。彼はオレのもの――正一のヤキモチと不安が解放の触媒か。正一に気を遣っていたとしても、由利だって態度をハッキリさせてなかったのは悪い。「奇妙な行為」ではなく、ちゃんとした「ちゅー」でないとわからないこともある…。BLだからハッピーエンドだろうと予想はつくが、ナルホド、オチはそうきたか。こりゃ由利のほうが苦労しそうだー。
■「HOME」 ★★★(兄キを越えられない、という弟は多そう)
編集・由利を主人公としたスピンオフ。両親の離婚で別れた出来のいい兄に、複雑で青っぽい感情を持つ由利が、自分を解放するまでを描いた家庭の事情モノ。ちょっといい話。
余裕綽々の兄にコンプレックスを持つ弟の話もありがちなのだが、由利兄のあのルックスは弁護士としてありえないかも?…ま、いっか。BLはファンタジーなり。
■「コル・レオニス ―獅子の心臓―」 ★★★☆(ライオン退治とゆーか、ライオン使いとゆーか)
由利の兄・百瀬(弁護士)仕事で出会った、大物政治家の息子・シゲル。ホームスクールで学校に行ったことがなく、協調性のない少年の話し相手になるという依頼を受けるが、シゲルは反抗的で――という、おじさんによる世間知らずのお坊ちゃん手なずけモノ。百瀬視点。
これも実はよくある話だけども、真剣になって読んでしまった。
ヒネくれってのは純真の裏返し…だよね。
■「Destination ―鳥と飛行機―」 ★★★★★(いい話だなあ、うんうん、わかるよ…)
表題作「コル・レオニス ―獅子の心臓―」の続き。シゲル視点。百瀬の影響から、高校に転入したシゲル。毎日が窮屈で仕方がなかったが、クラスメイトと自分との距離、そしてトモダチの意味を知っていく。そんな中、学校を休みがちな委員長・岡から話しかけられて――という、青春真っただ中で右往左往の少年による自己成長モノ。
自分中心の生活から、しがらみのある学校生活へ。自分はちっぽけな存在でなにもできない、変わりたいけど変われない。シゲルにとっては高校が最初の「社会」、でもそれは世間的には狭いもの。学生を卒業してしまえば、避けて通れないしがらみがもっと増えるよ――そんな「大人視点」で読んでいたのだが、高校における人間関係だって、狭いなりに葛藤や気苦労はあったはずで、それをシゲルは経験しているんだよなあ、成長していってるんだよなあと、つい遠い目になってしまった。いい話。ブリリアント。
■「CAFE HICKORY HOUSE」「誰がためにのばす手」 ★★☆(悪くないけど、読む人を選ぶね)
前者は喫茶店を舞台としたワン・シチュエーションもの。後者は和風の寓話もの。
両作とも初期っぽい出来だなあというか、小慣れていない印象。確認したら、「Baby」誌に掲載された1作目と2作目だった。前作はちょっとわかりにくく、後者は内容的に「暗さのない国枝彩香」。どちらも悪くはないけれど、印象に残らないかな。
総合評価:★★★★(絵・ストーリー、ともにもっともっと上手くなっていく人だと思う)
個人的にとても気に入った短編集。でなきゃ、1本ずつ感想を書いていない。どういったらいいのかな…車折さんは、基本的にメジャー路線のBLではないと思うんだけども、サブカル系に走らない・嫌味のないオシャレ系の人、とでもいうか。すぐカラダの関係に走り、それでしか思いを確認しあえないんだといわんばかりのキャラが多いBLで(←それが悪いとは思わないですよー)、体液飛び散るエロ描写はなく、キスという行為で恋のときめきを思い出させてくれる。ああ、そうだよね…好きな人とのキスはトロけるものだよね…。
自己の解放や成長を綴る話が多いかな。説教臭くないので、これまた嫌味じゃない。ただし、モノローグ先行な点が少々気になる。「オシャレ系よりリブレ系」という人にはピンとこないかもしれないが、私には「いい人見つけた!」な期待の新人さん。頑張ってー!
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
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