■『ようこそ。』(ガッシュ文庫)文庫 海王社 発売:2008/10/28 590円

BLカテゴリでは、年下攻というよりもはやオヤジ受な、ヘタレ怠け青年×アラウンド40男モノ。

コメディでもシリアスでも、「嗜虐的でストーカー気味な攻が、周囲からモテまくりの受を好きになり、伏線と謎を仕掛けておきながらそのすべてを回収しないまま、消化不良気味にストーリー終了する」作品が少なくないことから、まずそのあたりで読み手の好みがスッパリわかれてしまいそうな谷崎泉の最新作(のうちの1本)。


! 以下、ネタバレ注意報 !

昨年受けた「ラステロ」ショックがあーまーりーにー大きく、「ラステロ」以降の谷崎作品をすべて積読にしている状態だったけれど、最新刊のあらすじを読んだら、「嗜虐性皆無なヘタレ年下くん攻のリーマンオヤジ受コメディ」のようだったので、「おお!谷崎さんでこれは新鮮だ!」ということで早速読んでみた……らば、谷崎さんの特徴である「受・攻の間でコロコロ変わる視点」が封印され、主人公・オヤジ大黒谷の視点のみでずいぶんと読みやすい、話もわかりやすくて、一見さんがとっつきやすい作品に仕上がっていたのでちょっと驚いた。

ひとりに慣れてしまって結婚に至らなかった40リーマン男・大黒谷が、ある日、イケメン青年でゲイのステラと出会う。几帳面な大黒谷とは正反対、部屋はぐちゃぐちゃ、仕事もいいかげんでズボラなステラ。年の離れた友人のような関係を保ちつつ、生活力のないステラをかまっていた大黒谷だったが、自覚のないままいつしかステラに惹かれていく――という、ヘタレ年下攻のオヤジ受以外の要素として、価値観やバックグラウンドの違うふたりがいつしか惹かれあうようになるという王道ストーリーをプラスした作品なんだけども。

う~ん…これがなあ…けっこう面白く読んだし、谷崎攻キャラなのに嗜虐性ゼロなステラのほんわかヘタレぶりは新鮮で、大黒谷のかまいっぷりだって悪くなかったんだけど――ちょっと古いね、脇役の女性陣が。そして、彼女たちの言動や価値観に嫌らしさを感じる。今度はここで評価がスッパリわかれそう。

まず大黒谷・母。頭が固いという設定だろうし、40になっても結婚しない息子に世間体と老後の自分を心配してるのか、「息子がまわりにホモと思われて不快」で終わっているのがちょっと痛い。ハナからホモを肯定している母親なんてそうそういないと思うし、大黒谷もクライマックスまでホモ否定していたとはいえ、自分の息子とステラを認める救済エピソードが、最後にひとつくらい欲しい。

そして大黒谷の見合い相手・高橋。仕事に生きてきた独身女性の焦りはよくある話。でも「偏見ない」とずいぶんリベラルなことを云ったくせに、「いいもの見せて貰いました。ゲイの三角関係って激しいんですね」と云って、結局周囲に「あの人、ホモだったのよー」とバラしてるんだから、女の嫌らしさが出て、これも読んでいてちょっと痛い。

1ページに文字数が多くてもサクサク読めるのはさすがで、素晴らしいと思うし(しかも今回は視点が定まっている!)、伏線の回収を気にせずちゃんとエンドマークがついている……のに、今度は脇役に引っかかってしまった。決してつまらなくはない、オヤジ受好きにはオススメできる作品だけれど。

評価:★★★(私の指摘に問題を感じなければ、とても読みやすい、とっつきやすい谷崎作品)
たとえば代表作「しあわせにできる」を読んでいると、谷崎さんはエイジングへの恐れがあるんだなと強く感じるし(女性キャラ描写ね)、アッパークラスの価値観や設定にもやや古風な印象を受ける。いつもと違う設定とキャラ視点だったけれど、ステラの元カレの治ちゃんもステレオタイプのゲイだったし、やっぱりこの作品も根底に流れるものは同じだったかな…。

ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@ マークがつきます。
性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。

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